人を感傷的にさせる感覚の一つに、「郷愁」というものがあります。カタカナでいうと、「ノスタルジア」ですね。
辞書的な意味では「異郷の寂しさから故郷に寄せる思い」「過去のものや遠い昔などに惹かれる気持ち」とあり、この意味だけで捉えると、ややネガティブに聞こえてしまう可能性もありそうですよね。
でも、私は個人的には郷愁をネガティブな感覚とは感じません。また懐古主義とも違うと思っています。
「あの頃は良かったなぁ」とは違うんですよね。やや抽象的ですが、郷愁とは「あの夏の曲がり角の向こう側には何があったんだろう」なのです。

私の場合、幼少期から浸ってきた宮崎駿作品や、久石譲の音楽には、この郷愁が宿っている、というか、その塊に近いです。
郷愁を直接的に歌っている歌手やバンドもたくさんいますよね。これは個人差が相当激しいのであくまで私の場合ですが、GRAPEVINE、フジファブリック、小沢健二、荒井由実、吉澤嘉代子、ハナレグミ辺りが今ぱっと浮かんで来ました。
長く聴き続けていたからというだけの理由ではないですし、その曲を聴くと当時がフラッシュバックするからという理由でもないです。なぜこれらのアーティストが浮かんで来たのかはまた別の機会に深掘り分解してみたいと思います。
それから、特に夏という季節に強く紐づいている印象です。だからこそ夏の歌には郷愁を感じさせるものが多いですし、それを感じているからこそ夏の歌に郷愁を強く込めるアーティストが多いんじゃないかと思います。花火とか、夕暮れとか、突然の雨とか、すぐに去ってしまう儚さに郷愁を重ねることが多いですよね。それに、多くの人が焦がれた二度と戻れない子供時代の夏休みという共通認識が、大きな要因の一つにもなっていると思います。

郷愁は切ない気持ちなのかというと、確かに切ない気持ちを含んでいることはあります。「遠い昔に惹かれる」だけを切り取ると、これはセンチメンタルに直結しますよね。しかし、切ないだけでなく、懐かしくて暖かい感じもあるのです。
日々ほとんど余裕がなく忙しくなく生活していて、ある時ようやくふっと一息つけた時に、突然郷愁に駆られたりすることがあると思います。
人生は一瞬で終わってしまうからと、一つでも多くの目的や夢を叶えるためにあまりにも未来だけを見てせっせと働いていると、それまでに出逢えてきた多くの人やシーンや感情を蔑ろにしてしまう可能性もあるのかなと思います。人生には意図的にそうせざるを得ない時期も確かにあるとは思いますが、そのまま忘却してしまったとしたら、それは人生にとって大きな損失になるんだろうな、と強く感じます。
なので、たまに郷愁に浸って、「良い人生を歩んで来てたんだな。ありがとう」と何かに感謝を告げるくらいが丁度よいのかもしれません。